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「そこに住む人を守るはずの家。しかしその倒壊によって失われた命は数え切れなかった。」


 1995年1月17日午前5時46分52秒。
明石海峡を震源地とするマグニチュード7.3の直下型地震によって明石市、神戸市、芦屋市、西宮市、宝塚市など阪神間の各都市および淡路島北部が最大震度7の激しい揺れに襲われた。
 テレビや新聞のニュース、映像で被害の甚大さを見た人は多いが、それは大震災のほんの一部分でしかない。全壊した住家104,906棟、半壊144,274棟。開発者の住む伊丹市でも1,395棟が全壊、2,434世帯が住む家を失った。この数字が物語る現実は、そこにいたものにしかわからない。一瞬にして瓦礫の山と化した町。歩いても歩いても、歩いても。倒れた家、傾いた家、跡形もなく壊れた家ばかりが目に飛び込んでくる。そこに住む人を守るはずの家。しかしその倒壊によって失われた命は数え切れなかった。もちろん一方で、全壊した家の隣に、すずしい顔で建ち残った家があった。その強いコントラストに大きな衝撃を覚えた。
 建築に携わる人間は、地震直後からブルーシートを手に東奔西走する。私たちは自らも被災者だったが、我を忘れ、1人でも多くの被災者にせめて雨露をしのいでもらおう、たった一枚の薄いシートにも守れる命があるはずと、壊れた屋根に壁に、くる日もくる日もブルーシートをかけて歩いた。震災の記憶は、ブルーシートをかけた日々の記憶だ。


「家は全壊しても、そこに基礎は残っていた。しかし、基礎だけが残って、何の意味があるのか」


 何事もなく家が建っている時には目にすることのない住宅基礎。上ものを失った裸の基礎が、むき出しになってさらされていた。私たちはすでに基礎工事会社として20年のキャリアを積んでいたが、これほど多くの基礎を目にしたことはなかった。基礎だけが残って、何の意味があるのか。なぜ、これらの基礎は建物を支えることができなかったのか。揺れに耐えることができなかったのか・・・。


 「長年住宅基礎に携わってきましたが、正直なところ震災を経験するまでは、基礎工事の意味を真剣に考えたことはなかったかもしれない。与えられた仕事をルール通りにきちんとこなす。もちろんその中で自分なりの努力はしてきたけれども、その目的は自分自身のため、会社のためだったと思います。しかし、あの天災の前で脆くも崩れ落ちたおびただしい家を見て、自分がめざさなければならないのはただひとつ“安心・安全”を築くことだと思ったのです。」


「本物の“安心・安全”を全力でめざす会社を」


 その後、町が復興へと歩み始めると同時に、建築関連業者には黙っていても仕事が舞い込んだ。私たちは忙しさの中で、焦りを感じるようになっていた。震災前と同じやり方でいいのか。業界の常識に間違いはないのか。建築法さえクリアすれば責任を果たしたことになるのか。震災を体験した自分だからこそできることがあるのではないか。そして、1997年に独立。本物の“安心・安全”を全力でめざす、そのための基礎を考える会社をスタートさせた。


 「もちろん震災を体験して変わったのは私だけではありません。被災地の同業者はみな、震災から多くのことを学びました。耐震設計法、建築基準法改正に阪神・淡路大震災の教訓が生かされていることは間違いありません。しかし、建築基準が厳しくなればなるほど、法の遵守、つまり数字をクリアすること自体が目的となってしまい、法がめざしているはずの安全と現実との間に矛盾を感じるようになったのです。」


「耐震等級3の構造設計に対応すれば、本質強度が実現するのか」


 事実、耐震等級3の構造設計に対応しようとすれば、本来の構造断面設計を超えた過剰な鉄筋が配筋されることがあるという。鉄筋は多ければ多いほど安全性が高いというものではない。過剰な鉄筋が複雑に配された場合、コンクリートをくまなく打設することが困難になる。コンクリートが鉄筋に完全に付着していなければ、逆に安全性が低下してしまうのだ。さらには耐力を向上させるための構造設計も、施工時には立体的な納まりを考慮しなければならないため、鉄筋を同一箇所に複合集中させざるを得ないこともある。こうなると、耐力を向上させるどころか、構造上の問題にも繋がりかねない。


 鉄筋の重なりを最小限に抑えるにはどうすればいいか、複雑な配筋の中にすき間無くコンクリートを打設する技術はないか、さまざまな試行錯誤の末、たどりついたのは新たな連結技術だった。ユニット鉄筋による配筋には連結筋が不可欠である。連結筋を使わず直接連結ができれば、過剰な鉄筋を削減することができる。シンプルな配筋によって、密実なコンクリート打設が可能となり、本質強度がアップする。それが本来の鉄筋コンクリート造なのだ。現場では、連結筋の結束作業にもかなりの工期を要する。直接連結のメリットは大きい。しかし、直接連結が可能な既存のユニット鉄筋は存在しなかった。


「どこにもないなら、わたしたちが作ろう!」


 私たちは独自のユニット鉄筋の開発に着手した。近畿大学理工学部建築学科の協力を得、破壊試験、研究が重ねられた。こうして生まれたのが、ユニット鉄筋のジョイント部をZ字状に加工することで直接連結を可能にする画期的な工法だった。その工法は「Zジョイント工法」と名付けられた。
「Zジョイント工法」は、より高い“安心・安全”を実現しながら、現場の無理・ 無駄・ムラを排除することが実証され、私たちは「Zジョイント工法」のためのユニット鉄筋資材メーカーとしての新たな一歩を踏み出した。

 「震災の後、建物が倒壊し、基礎だけが残った姿を見て、とても空しい思いをしました。地盤、基礎、建造物、それぞれの設計者、資材メーカー、施工業者が“安心・安全”というひとつの目的に向かって、妥協を許さず、なおかつ力を合わせなければ、本当に良い家はできない。家づくりの仕事は、ビジネスであってもビジネスに終始してはならない。ブルーシートをかけて回った時の気持ちを原点に、家づくりに関わるすべての部門が安全をめざして融合していけるよう、わたしたちは、そのための核となっていきたいと思っています。





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